マンガ「おたんこナース〜おっちょこちょいだけど一生懸命で愛される新人看護師」から日本の看護を知る

看護師が主人公のマンガ

海外に知られた日本の文化の一つにマンガがあります。看護師を主人公にしたマンガはいくつかありますが、「おたんこナース」(佐々木倫子・小林光恵)はその中でもよく知られた作品です。「おたんこナース」の語源は、「おたんこなす」、つまり「あわてもの」「ばか」という意味の俗語から来ています。日本語では「ばか」はきつい言葉のように取られがちですが、このマンガのタイトルには「あわてものではあるが、周りの人から愛されている」ナースが主人公であることが表されています。

あわてものの主人公

主人公の似鳥(にたとり)ユキエは、東京のK病院(総合病院)で働く新人ナースです。学校で学んだ知識をもとに科学的なケアに集中するあまり、患者自身の気持ちを汲み取ることを忘れてしまったりします(カルテ12「痛えの痛くねえのって」)。Nursing is widely considered as an art and a science(Jasmin, 2009)といいますが、新人ナースにとって、科学的思考と感情労働のバランスが難しいことは、どこの国でも同じかもしれません。本書は、2002年に出版されているので、その後の医療・看護技術の発達や患者への病名告知など、少し時代設定が古くなっている部分もあります。それでもなお、この漫画を日本で働く海外出身の看護師に勧めたいのは、日本の医療や看護の特徴が色濃く反映されているからです。

日本の看護師の業務内容がわかる

看護業務は患者の疾病や医療制度によって大きく変わります。日本では入院患者の看護は看護師が行いますので、病院内では家族が患者のケアをすることはありません。一方で、退院後の在宅ケアを目的とした、患者の自立への支援と、それを支える家族への退院指導も看護師の業務となります(カルテ28「明治生まれの人」・カルテ29「適材適所」)。

日本の看護師の歴史がわかる

どこの国でもそうですが、看護師は、医師との対等な関係性を確立するために戦ってきました。現在はチーム医療を旨としているので、医師と看護師はそれぞれの役割を分担して患者に対応しています。今は男性ナースや女性医師が増えてきましたが、医師対看護師の構図をジェンダーと重ねるのは、今日においても重要な視点です(カルテ33「症例検討会」)。

日本の看護師のプライドがわかる

本書では登場人物の多くが慢性疾患を抱えていたり、高齢者として描かれており、一筋縄ではいかない患者に対するベッドサイドケアのだいご味が描かれているところが魅力です。ICUやオペ室で高度先端医療機器をそつなく扱う看護師も魅力の一つではありますが、単なる医師の助手としてではなく、看護師独自の専門性をベッドサイドで模索する似鳥ユキエやその先輩たちの活躍も、日本の看護師がプライドに思う看護行為を映し出しています。

「おたんこナース」はインターネットでも購入が可能なようですので、日本で働くことを考えている看護師の方は、ぜひ日本語の勉強の一貫として、このマンガを読んでみてはいかがでしょうか。

(評者:長崎大学生命医科学域教授 平野 裕子)

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